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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(行ツ)52号 判決 1970年10月23日

上告人 福島県選挙管理委員会

右代表者委員長 木川田明代

右指定代理人 小野崎正明 <ほか二名>

被上告人 鈴木達信

右訴訟代理人弁護士 長田弘

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

第一上告指定代理人小野崎正明、同降矢通昭、同渡辺祐次の上告理由第一点について。

投票を二人の候補者氏名を混記したものとして無効とすべき場合は、いずれの候補者氏名を記載したか全く判断し難い場合に限るべきであって、そうでない場合には、いずれか一方の氏名にもっとも近い記載のものはこれをその候補者に対する投票と認め、合致しない記載はこれを誤った記憶によるものか、または単なる誤記になるものと解するのが相当である(当裁判所昭和三一年(オ)第一〇二四号同三二年九月二〇日第二小法廷判決、民集一一巻九号一六二一頁参照)。本件の場合、所論「藤田英七」と記載された投票は、候補者藤田英実の氏名四字のうち上位三字まで合致しており、ただ名の第二字が実でなく七と記載されているにすぎない。そして、藤田と佐藤とは、外観および称呼において類似性に乏しいこともあわせ考えると、所論の二票は、候補者藤田英実、同佐藤英七の氏と名を混記したものと認めるよりも、むしろ藤田英実に投票する意思をもって名のうちの一字を誤記したものと認めるのが相当である。されば、前示投票を右両候補者のうちの何人に対する投票か判明しがたいものとして無効のものと解した原判決の判断は、公職選挙法六八条の適用を誤ったものであって、論旨は理由がある。

第二同第二点について。

投票に記された文字に誤字、脱字があり、または明確を欠く点があっても、その記された文字の全体的考察によって当該選挙人の意思がいかなる候補者に投票したかを判断しうる以上、これを当該候補者に対する有効投票と認めるべきである。所論「書き文字<省略>ジツ」と記載された投票は、第一字目はイを裏返しに書いたものであると認められ、また、第二字目はエと判読することができ、全体として「イエジツ」と判定することが可能であるから、候補者藤田英実に対する有効投票と解すべきである。されば、右投票を判読しがたいものとして無効のものと解した原審の判断は、公職選挙法六八条の解釈を誤ったものであって、論旨は理由がある。

以上の次第で、当裁判所の判断によれば、原判決が無効と判断した三票は、藤田候補に対する有効投票と認むべきである。してみれば、原判決が藤田候補に対する有効投票として計上した一七八・四五七票は右三票が加算されて一八一・四五七票となるべき筋合であるから、原判決の判断の範囲内における当裁判所の判断の段階では藤田英実を当選人と、被上告人を落選人と各決定さるべきこととなる。したがって、以上と相容れない原判決は、破棄すべきである。しかし、本訴の如き訴訟においては、当裁判所の判断の対象とされた投票以外の投票に関しその有効無効について争わしめるのを相当とするから、本件はこれを原裁判所に差し戻し、更に審理を尽さしめるのを相当とする。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

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